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間質性膀胱炎(interstitial cystitis; IC)

一般的な膀胱炎は急性細菌性膀胱炎で、女性に多いポピュラーな病気です。
膀胱炎は尿をためる袋である膀胱に、尿道から細菌が入って炎症を起こす病気です。膀胱炎の三大症状は、頻尿、排尿時の痛み、尿の濁りで、排尿後に拭いたトイレットペーパーに血液が付着したり、切迫性尿失禁を起こしたりすることもあります。

間質性膀胱炎は次のような症状や特徴があります。

間質性膀胱炎は「細菌感染」とは直接的には関係のない膀胱炎です。
間質性膀胱炎は頻尿、尿意切迫感、尿がたまった時の膀胱や尿道周辺の痛みを主症状とする膀胱の慢性炎症性疾患で、女性に多い病気です。

  • 尿がたまってくると痛みや不快感が増す
  • 排尿後は痛みや不快感が軽くなる
  • 尿の出はじめに時間がかかる
  • 排尿の勢いがあまりない
  • 月経前に膀胱周辺や陰部の痛みが増す
  • 便秘になると、膀胱や尿道が痛む
  • セックス時に膀胱が痛くなる
  • ある種の飲食物を摂ったあとに症状が悪化する

間質性膀胱炎の診断には、排尿日誌、間質性膀胱炎の症状・問題質問票、膀胱鏡(膀胱の中を観察するカメラ)を行います。間質性膀胱炎では、膀胱鏡でハンナ病変という特有の病変を認めます(図)。
間質性膀胱炎に似た症状があるものの、膀胱鏡でハンナ病変が確認されない場合は「膀胱痛症候群」と呼んで、間質性膀胱炎とは区別します。

間質性膀胱炎(ハンナ型)は指定難病(226番)ですので、お住まいの区市町村(東京都の場合)に申請することで難病医療費助成を受けることが可能です。なお、当院は難病指定医が勤務している指定医療機関です。

心因性頻尿と間違われやすい

間質性膀胱炎はとても診断の難しい病気です。
症状が普通の急性(細菌性)膀胱炎と似ているため急性膀胱炎と診断され、その治療として、抗菌薬の投与を受けることが多いです。しかし、間質性膀胱炎は細菌感染による膀胱炎ではないため、抗菌薬投与の治療を受けても症状は改善されません。検査でも細菌が検出されない、症状の原因がわからない、ということで精神的な原因を疑われることもあります。

間質性膀胱炎の典型的な症状は激しい頻尿と痛みです。
日中・夜間を問わない激しい頻尿と尿意亢進、そして膀胱や下腹部の痛みや不快感です。とくに、尿が溜まってくると痛みが増強し、排尿した後は再び尿が溜まってくるまでは症状が軽快するため、痛みを感じないですむように早め早めにトイレに行くことで頻尿になります。

心因性頻尿の場合、夜間に排尿のために起きることがほとんどありませんので、多くの場合起床時には通常量の尿を排尿することができます。
間質性膀胱炎と心因性頻尿のように一部の症状が似ている疾患の鑑別には、排尿日誌がとても役立ちます。

病態

グリコサミノグリカン(GAG)層の異常

膀胱の表面にあるグリコサミノグリカンと呼ばれる層があります。これは膀胱粘膜に細菌や有害物質が付着するのを保護したり、尿が浸透するのを防いだりする役割をします。この膀胱粘膜のグリコサミノグリカン(GAG)が何らかの理由で障害され、粘膜の透過性が亢進し、尿が膀胱粘膜下に浸み込み、知覚神経を刺激してしまうことによって、痛みが起こると考えられます。しかし、グリコサミノグリカン(GAG)が障害される原因はわかっていません。

肥満細胞の活性化

通常、体内では病原体が外から侵入すると、肥満細胞(粘膜などに存在する細胞。太っているかのように大きい細胞のこと)は、ヒスタミンなどを放出し、炎症を起こして病原体の臓器への侵入を防ぎ、体を守るように働きます。

しかし、グリコサミノグリカン(GAG)層の障害により尿が膀胱粘膜下に浸み込むことによって、大量の肥満細胞が活性化し、慢性的に炎症を起こすことで自分自身の組織を障害してしまうことが原因のひとつと考えられています。

治療

手術療法
「麻酔下膀胱水圧拡張術」

膀胱に生理食塩水を注入して、水の圧力で膀胱を広げる方法です。
膀胱に生理食塩水を注入するだけとはいえ、膀胱が萎縮してしまっている患者さんにとっては、生理食塩水の注入とともに膀胱が広がるとひどい痛みを感じることになるため、腰椎麻酔や全身麻酔をかけて行います。

手術をしてすぐに症状が改善されるわけではなく、最初の1~2週間は症状が変わらないか、一時的に悪化し、やがて改善する場合が多いようです。また、手術の直後は血尿となりますが、これは数日で止まりますので、心配はいりません。また、術後10日目くらいに排便で力んだりしたことをきっかけに血尿になることがありますが、これも大抵は1-2日でおさまりますので心配いりません。

この手術によって過半数の患者さんで術後、症状が緩和されると報告されています。ハンナ病変に対して以下の手術を同時に行います。

「経尿道的ハンナ病変凝固術」

間質性膀胱炎(ハンナ型)では、前述の麻酔科膀胱水圧拡張術と同時に、ハンナ病変部を電気やレーザーで焼灼凝固あるいは切除します。これにより、尿がたまった時の膀胱痛が軽減し、結果として頻尿も改善します。アメリカの間質性膀胱炎の治療ガイドラインでもすすめられている治療です。

薬物療法

これらは間質性膀胱炎に対して適応が認められている薬ではありません。

塩酸アミトリプチリン

抗うつ薬ですが、心因性を原因として処方しているわけではありません。うつ病の治療薬として処方されるこの薬は、子どものおねしょの治療に使われることもある薬です。

膀胱を弛緩させる作用があるので、縮んだ膀胱をリラックスさせる効果があり、頻尿や尿意切迫感などを解消します。間質性膀胱炎の患者さんは、慢性的な痛みや昼夜を問わない頻尿によって睡眠不足に陥っていたり、うつ的な症状を起こしていたりする場合があります。抗うつ薬の効果で副次的に、うつ的な症状が軽減したり、眠りにつきやすくなったりもします。

抗ヒスタミン薬

間質性膀胱炎の患者さんでは、膀胱の粘膜下組織に肥満細胞が多く見られます。その肥満細胞は痛みを起こしたり、血管を拡張したりして症状を起こす原因となるヒスタミンが含まれており、これをコントロールし、症状を抑えると考えられています。

ただし、副作用として眠気が強いため、十分な量が内服できないことがしばしばあります。

漢方薬

疼痛緩和と自律神経失調症状の緩和に漢方薬が投与されることがあります。猪苓湯、五淋散、竜胆瀉肝湯などがあります。

膀胱内に直接薬物を注入する方法

ジメチルスルホキシド(DMSO)

膀胱内にカテーテルを用いてDMSOを注入することで、膀胱壁に直接働きかけ、膀胱の炎症を抑えたり、膀胱粘膜を修復したりすると考えられています。

症状がひどい時に注入すると激しい痛みを引き起こすことがあるので、リドカインという局所麻酔薬を注入して膀胱壁に麻酔をし、リドカインを排液した後にDMSOを注入します。2週間に1回、計6回外来で膀胱内注入を行い、症状の変化を評価します。

注入後15分後くらいから数時間、汗や呼気からニンニク臭が発生します。自分ではほとんど臭いに気づくことはありませんが、帰宅後はしばらくの間、換気の良い部屋にいた方が良いかもしれません。

DMSOは2021年4月に保険収載されました。

保存的治療

間質性膀胱炎では食事、精神的ストレス、天気、便秘、姿勢、女性であれば月経周期の影響を受け、寛解と悪化を繰り返すとされています。天気や月経を自ら変えることはできませんが、なるべく精神的ストレスのない生活を心がけ、便秘にならないようにし、座ったまま、立ったままなどの同一姿勢の長時間の保持も避けた方がよいとされています。生活指導の中でも特に大切なのが食事療法です。

1)食事療法

ある種の飲み物や食品が痛みを引き起こすので、食べると症状が起きる食品を避けるようにすることが食事療法です。避けた方が良い食品は、尿のpHが下がる(酸性尿)食品や尿中にカリウムが多量に排泄される食品、またヒスタミンやチラミンが多く含まれる食品などです。

前述のように間質性膀胱炎では、膀胱粘膜のグリコサミノグリカン(GAG)が何らかの理由で障害され、粘膜の透過性が亢進しているため、食べた食品の代謝産物を含む尿が膀胱粘膜下に浸み込み、知覚神経を刺激することによって、痛みが生じます。

米国間質性膀胱炎患者会 (Interstitial Cystitis Association; ICA) のホームページで、患者さんが避けた方がよいと言われている食品を紹介しています。多くの患者さんが、柑橘系果物やそのジュース、香辛料、カフェイン、アルコールなどによって症状が悪化します。

  特に避けるべき食品 避けた方がよい食品 食べてもよい食品
果物 グレープフルーツ、オレンジ、みかん、レモン、パイナップル、リンゴ、イチゴ、クランベリー   スイカ、梨、ブルーベリー、桃
野菜 トマトとその加工品
ピクルス
玉ねぎ ニンジン、かぼちゃ、長ねぎ、キャベツ、きゅうり、ブロッコリー、コーンなどの酸味の強くない野菜
乳製品 ヨーグルト、サワークリーム 熟成チーズ(カマンベールチーズ、チェダーチーズ、ブルーチーズ) 熟成されていないチーズ(カッテージチーズなど)、牛乳
飲み物 アルコール(ビール、ワインなど)、カフェインの多い飲み物(玉露、紅茶、コーヒー)、炭酸飲料、柑橘系果汁のジュース   酸およびカフェイン抜きのコーヒー、紅茶、ハーブ茶
調味料 酢、マヨネーズ、ドレッシング、トマトケチャップ、香辛料の多い料理(中華、インド、メキシカン、タイ料理)、化学調味料   ハーブ、にんにく
豆類 大豆、豆腐、納豆、味噌、醤油 そら豆  
炭水化物   ライ麦パン 米、パン、パスタ、芋類
肉・魚 熟成、缶詰、塩漬け、燻製、その他の加工が施された肉や魚、アンチョビー、キャビア マグロ・カツオ・鮭・青魚・海老 牛肉の赤身、豚肉の赤身、皮を除いた鶏肉、白身の魚、卵
ナッツ類 ほとんどのナッツ類   アーモンド、カシューナッツ
その他 クエン酸、人工甘味料、チョコレ―ト   ホワイトチョコレート
2)膀胱訓練

通常より少し多めの水分を摂取し、1日の尿量を2000ml程度にまで増やしたうえで、尿意があってもできるだけがまんし膀胱を広げてからトイレに行く膀胱訓練も有用です。尿が濃いと、いくら我慢しても尿が自分の膀胱にしみて痛くなるため、膀胱に多くの尿をためることができません。膀胱訓練は時間や気持ちのがまんより、膀胱をいかに広げるかが目的ですので、痛みを引き起こしにくい薄めの尿をできるだけためて、膀胱を広げてからトイレに行くようにします。膀胱訓練は、毎日自分で行う膀胱水圧拡張術といえます。

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